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【総選挙2014】「選挙どうされますか?」と24人に質問してみた

  • オバタカズユキ (フリーライター)
  • 2014年12月14日


Photo by Sendai BlogCC BY 2.0

こんどの選挙、どうしたらいいのかぜんぜん分からなくて。唐突な質問で恐縮ですけど、〇〇さんは実際どうされますか——?

新聞各紙が一面トップで一斉に「年内解散・総選挙」の報道を流したのは11月12日。逆算すると、この原稿を書いている今日からちょうど1カ月前のことになる。思うところがあって前回の都知事選から投票に行くことを自分に課してしまった私は、最初の報道の時点でさっそく困り始めていた。

これといった争点もなさそうだし、ただ単に安倍政権の長期化を狙った解散総選挙にすぎない気がする。ダイヤモンドオンラインの編集長が投げやりな筆致で「どっちらけ選挙」と評していたが、気分としてはそれに近い。

しかも、私の場合は貯めに貯めてきたツケがある。ずっと棄権し続け、国政選挙に行くのは30年近くぶりのことなのだ。おかげで、どの候補者にどういう理由で入れたらよいのか、まるで勘が働かない。いい歳をして情けない。

困ったな、みんな困ってないのかな、ぶっちゃけどういうふうに決めているのかな。そんなことが気になってきて、だったら直接聞けばいいだろうと思い、その日から私は、人と会うたびに「実際どうされますか?」と質問してみることにしたのである。

仕事の打ち合わせ後の世間話として、インタビュー取材の相手から余談として、プライベートな用事の際にも天気の話をするかわりに、酒場で隣り合ったらこれも一つの縁ということで、なるべく多様な属性の人々の選挙行動とその思いを聞かせてもらう。好奇心です、すみませんと、ゆるーく質問をし続ける。結果、1カ月間で計23人ぶんの回答を得ることができた。

きっぱりと「自民党ですね」

このコラムでは、そうして得た回答事例の紹介と、そんなことをしてみた結果、私自身が投票をどうすることに決めたか、ざっくばらんに書くこととする。深い何かを感動的に描くモノではまったくないが、投票の参考にちょっとでもなる読者がいたら幸いだ。

まず、回答事例で印象深く思い出すのは、会って2回目の仲で妙な質問をされたにも関わらず、きっぱりとこう言い切った彼である。

「僕は、今回、自民党ですね。なぜか。特に支持政党というわけではないのですが、今、政権を変える理由はないからです。ええ、はい。主に経済政策の点で一定の評価をしていますね。アベノミクス効果の表れという単純な話ではないと思いますが、雇用が増えてきたという実感は確かにありますから」(30代・男性・人材紹介会社勤務)

パリッとしたスーツ姿で明快に答えてくれた。ふだん会う人の多くはマスコミ業界や大学業界などに属していて、自分も含めどこか浮世離れしている。思想はあるかもしれないが、生活の根っこがない。比して、スーツで生きている彼らには、もっとリアルな職業生活がある(ように見える)。そういう人が、ためらいなく「自民党ですね」と口にする様子は個人的に嫌いじゃない。

スーツ姿ではなかったが、都内のバーでたまたま隣り合わせた青年も、「自民党です」と言い切っていた。

「自分は、正直、支持者っす。景気のこと、本気で考えているのは、やっぱ自民党しかないじゃないですか。右傾化とか、そういうことはよく分からないですけれど、民主党政権で景気がよくなるとか思いますか。自分にはイメージが描けないっすね」(20代・男性・飲食店マネージャー)

酒場で政治と宗教の話題を出すのはタブーとされている。あのバーで青年の政治主張は30分間ほど続き、話を振った私は「いけないことしちゃったかな」と少し反省したのだが、マスターもまわりの常連さん方もイレギュラーな場の流れを見守るように楽しんでくれた。誰かが「それには異論があるね」と口を挟んで来たら、おそらくマスターが即ストップをかけただろう。

タクシードライバーたちの選択

その夜バーを出たのは丑三つ時。終電時間はとっくに過ぎていたのでタクシー帰りになった。その車内でまた選挙の話を聞くことができた。

「今回は投票率が低そうですね。ラジオでもそんな話ばかり。あ、私ですか。私は、小沢さんの党に入れようか、と。ええ、生活の党です。なんでそんなところに、と怪しまれてしまうので、自分からはあまり言わないんですが、小沢さんの考えはけっこう正しいと思うんですよ。建前にすぎないのかもしれませんが、内需拡大などの政策は、現実的だと感じていまして」(40代・男性・タクシードライバー)

ベタな話だが、タクシー帰りになった夜は、たいていドライバーさんに「景気はどうですか?」と聞くことにしている。今年、「上向いている」という返答をもらったケースは一件もない。「アベノミクスは無縁ですね」と決まり文句のようにみなさん言う。もう一人こんな話をしてくれたドライバーさんもいた。

「選挙は行く予定です。前の参議院選では維新に入れました。今回は……失礼ですが、お客さまは政治関係の? あ、記者さん。だから、なるほど、分かりました。いや、どうしてこの仕事に就いたのか、という質問はもう何百回と受けているんですが、投票先を聞かれたのは初めてなもので。今回は、どうしようか迷っています。維新を軸にした第三極に少し期待していたのですが、あんな感じでまとまらないし。目をつむって民主党に入れるか、白紙で出すか」(20代・女性・タクシードライバー)


Photo by OiMaxCC BY 2.0

バックミラーに映っていた、女性ドライバーさんは目力の強い人だった。白紙投票は無効票扱いでカウントされないから無意味な行為だという話をしたら、「それは知りませんでした。教えてくださってありがとうございます!」といたく感謝された。でも、「白紙投票するなら棄権が自然では」と言うと、「権利の放棄はしたくありません」とキッパリ返された。棄権といえば、こんな話を聞かせてくれた人もいた。

「オバタさんは30年棄権していましたか。私は30年ぶりに棄権するつもりです。投票率、どのぐらいまで下がるでしょうね。専門家はあり得ないと言うんですが、例えば50%を切ったら、今の選挙制度のあり方を本気で問い始めるのではないかと思うんですよ。小選挙区制は無難なことを言う人しか通らない制度ですから。そこを壊さないと、新しい流れは生まれてこない。ボイコット運動を起こさないまでも、超低投票率から日本人は目覚めるのではないか。そんな可能性を夢想していて」(50代・男性・フリー編集者)

棄権する、と言っていた編集者氏は左翼でも右翼でもないが、常に「反権力」を意識して仕事も進めている。同世代で話も合うから、「ロマンチストだねえ」と皮肉を言ったら、「で、リアリストのオバタさんはどこに投票を?」と逆質問された。それが分からないからこうして会う人ごとに聞いているのだけど……ね。

「24分の23」の高回答率

さて、この調子で書いているとキリがないので、5人紹介したところで事例紹介は終わりにしよう。残り18人を含めた聞き取り結果は、こうだった(比例代表の投票先別)。

・自民党7人…上記の人材紹介会社勤務氏と飲食店マネージャー、(20代・女性・アパレル会社勤務)、(30代・男性・リース会社勤務)、(30代・男性・不動産会社勤務)、(40代・男性・大学教員)、(60代・女性・飲食店経営者)

・共産党6人…(20代・男性・塾講師)、(20代・男性・アルバイト)、(50代・男性・編集者)、(50代・男性・フリーライター)、(50代・女性・介護職員)、(70代・女性・無職)

・民主党2人…(40代・男性・フリー編集者)、(40代・女性・フリーライター)

・生活の党1人…上記の男性タクシードライバー

・未定4人…上記の女性タクシードライバー、「民主党か共産党かで迷っている」(30代・男性・版元編集者)、「投票所で考える」(30代・女性・版元編集者)、「安倍政権批判票としてどこがいいか、当日まで考える」(40代・男性・ライター)

・棄権3人…上記のフリー編集者の他、「争点のない選挙には行かない」(40代・男性・大学教員)、「今回の選挙自体を拒否したい」(40代・女性・看護師)

以上、23人、その内訳を簡単にまとめてみた。「なるべく多様な属性の人々」の声を聞こうとしたとはいえ、出版関係者の割合が高い。ツーカーの関係にある身近な人は避けたのだが、どうしても業界は偏ってしまった。そして、あらためて同業者には、野党志向、あるいは浮動票が多いのだなと思った。

もちろん、この聞き取りは私の「遊び」にすぎず、母集団も偏っており、なにかの分析対象になるものではない。ただ、意外な発見は幾つかあって、そのうちもっとも印象的だったのは、唐突な質問にもかかわらず、みなさんが気軽に応えてくれたということ。「それはまたの機会に」とやんわり断られたのは同業者からの1件だけで、「〇〇さんは実際どうされますか?」と尋ねた24人のうちの23人が、快く、何人かは面白がって回答してくれたのである。初対面やあまり親しい仲ではないにも関わらず、だ。

選挙に対する向き合い方や思いはまさに人ぞれぞれだったのだが、流行りのドラマの話でもするかのようにしゃべってみると、いい意味で肩の力が抜けていく。私の場合、「みんな違ってみんないい」的な感覚というか、自分とまるで違う思考法に出会うほど世界が広がるような気分になり、そのコミュニケーション自体がけっこう楽しかった。

小選挙区は人で入れる

また、「どの候補者にどういう理由で入れたらよいのか」と、勝手に選挙を自分の中で重たいものにしていた一人相撲にも気づかされた。「入れる先がなくて困った困ったと嘆いているのは自意識過剰にすぎない」と思えるようになり、14日の投票日にどうするかについても、まあ、こんな決め方でいいんじゃないかなと着地点が見えてきた。

まず、小選挙区。私は東京2区の有権者なのだが、あきらかな死票を投じるのはつまらない、と思う自分がいると分かった。そうなると選択肢は、前職の自民党・辻清人候補か、元職の民主党・中山義勝候補かのどちらかに絞られる。

帰国子女で元リクルート社員の辻候補は組織票をがっつりおさえてリードしているようだが、「若き自民党のホープ」というキャッチフレーズが目立つばかりで、いまいち魅力が分からない。「日本を愛する心」が政治家を目指した原点だというが、それがどんな政策や活動成果につながっているのか。ネットで見る限り、私には判断ができないのだ。

比して、ベテランの中山候補は、10数年前から「コンパクト・シティ」の考え方を重んじ、中小企業支援策の策定に力を注いできたようだ。民主党という枠組みの中で何をどこまでできるのかは疑問だが、政治家個人としての輪郭は中山候補のほうがはっきりしていて、発信内容も個人事業者の私には頷けるものがけっこうある。

よって、小選挙区は、民主党・中山義勝候補に一票入れる予定。ベストではないが、ベターな選択で良し、と割り切るつもりだ。

比例は政策を無視する

あとは比例代表。私は、この国の政治の喫緊の課題は、超高齢化社会がもたらす悲劇をどれだけ最小限にとどめるか、具体的には年金と医療の崩壊をどのように食い止めるのか、だと思っている。そのためには消費大増税が必要なのかもしれないし、年金の受給額の大幅カットなども同時に断行しなければならないのかもしれない。

しかし、どの党も、この大問題に対して本気で向き合っている様子がない。維新の党は「社会保障制度改革」の意識が高いようだが、「払い損のない積み立て方式への移行」「年金目的相続税の導入」といった耳触りのいい政策で、はたして年金破綻が避けられるものか疑問だ。基本政策の優先順位として「社会保障制度改革」が高いわけではなさそうだし、そもそもこの党が強く発している新自由主義的な価値観にはついていけないものがある。

他の各党は、超高齢化社会対策について触れないようにしているか、きれい事で誤魔化しているかとしか見えない。この問題を抜きにして、エネルギーや外交やもろもろの課題を論じても虚しいだけだと思うので、私は政策で党を選べない。

では、どうすべきか。小選挙区だけ投票して、比例代表は棄権という選択肢もあるかと考えたが、「それでもどこかに入れなければいけない」という枷を自分にはめることで作られるスタンスもあるはずだ。というか、棄権は30年続けてもう十分だから、私にとって投票は原則マストなのである。

結論としては、共産党に入れる予定だ。党の体質も政策も疑問符だらけだが、私の場合、それを言い始めたら、どこの党も粗ばかり見えてきて選べなくなる。だからこの際、体質も政策も無視で行く。かわりに、圧倒的に強い自民党という権力のチェック役を共産党に期待する。なんでも社会問題化して権力にケチをつける能力では図抜けた野党だと思うので、イシューごとのマスコミとの連携の可能性も含めて、彼らの調査・告発のパワーに、とくに清くもない自分の一票を投じてみようと決めた。

選挙結果はともかく、だ。そんなこんなで投票が終わったら、引き続きの楽しみがある。「こないだの選挙、〇〇さんは実際どうしましたか?」と出会う人に質問をして、どんなコミュニケーションが成立するか、試してみようと思っている。


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著者プロフィール

オバタカズユキ
おばた・かずゆき

フリーライター

1964年東京都生まれ、千葉県育ち、東京都在住。フリーライター。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、フリーランスに。著書は1993年に『言論の自由』(双葉社)でデビュー後、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)『会社図鑑!』『大学図鑑!』『資格図鑑!』(ダイヤモンド社)他多数。近刊は書下ろしノンフィクション『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)。編集協力に『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)など。

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